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新銀行東京のビジネスモデルは破たんしている!


新銀行東京の経営が行き詰まり、400億円の追加出資案が都議会で議論されている。同銀行の設立時には、東京都が1000億円を出資しているが、現時点で累損が1000億円近くなり、当初の資本金を食いつぶしてしまった。そのために、新たに400億円を追加出資しようというわけだ。

報道によれば、すでに賛成の立場を示している自民党に続き、公明党が条件付きで賛成する方向で調整に入ったとのこと。両与党が過半数を占める都議会で追加出資案が可決される可能性が高くなってきた。委員会採決は3月26日、本会議の議決は28日に行なわれる。

それにしても、なぜこんなことになったのか。3月10日に提出された新銀行東京の調査報告書によれば、仁司泰正・元代表執行役の責任が重大であると記されている。仁司元代表が「どんどん貸し込め。貸倒引当金もしっかりと使い込め」と行員に訓示をし、過剰融資、乱脈融資を続けてきたことが経営行き詰まりの最大の原因だという。

確かに、新銀行東京の経営がずさんだったのは否定できない。だが、経営の行き詰まりの責任を元代表一人に押しつけて、東京都が追加出資を押し切ろうとしているのは、どうもわたしには納得がいかないのである。



新銀行東京はビジネスモデル自体に問題があった

そもそも、中小企業にどんどんと融資をするというのは、東京都の政策だったのではないか。そうした東京都の意図を受け、新銀行東京は無担保、無保証でスピード融資を目指した。ほかの銀行と違って細かく調べることなく、書類審査に基づいて公正な基準で融資するというのが新銀行東京のウリだったのである。

では、なぜそのような銀行ができたのか。

今から6、7年前のこと。貸し渋りを続ける銀行を俎上に乗せ、メディアが激しい銀行批判を繰り返したことがあった。ご記憶の方も多いと思うが、簡単にいえばそれは「銀行悪玉論」だった。

そんな状況のなか、「いまの銀行は、やれ担保だ保証人だと、うるさいばかりだ。そうしたものがないと融資をしないものだから、優秀で将来性のある中小企業の芽を摘んでしまうことになる」という意見がでてきた。「そうした銀行は臆病者で能力が低いから、中小企業に貸せないのだ」という議論である。

そこで登場したのが、ミドルリスク・ミドルリターンという、新しい銀行のビジネスモデルだった。

ローリスク・ローリターンのビジネスモデルをとっていた従来の銀行とは一線を画し、少々金利を高めに設定することで、担保も保証人もない中小企業に融資すれば、新しい銀行業が成り立つという考え方だ。それでビジネスが成立すれば、中小企業が救われて経済が活性化するというバラ色の未来がやってくる。

そうした議論に対して、ほとんどのメディアが支持をした。そんな社会の流れに乗っかって新銀行東京ができたといってもいいだろう。

しかし、わたしは当時から、ミドルリスク・ミドルリターンなどという市場は、ほとんど存在しないと言い続けてきた。あるとしても、それはものすごく小さい市場であり、そこでビジネスを展開するのは非常に難しいとしか言いようがない。


「ミドルリスク・ミドルリターン」は空想の産物

なぜ、ミドルリスク・ミドルリターンというビジネスモデルが困難であるか。それは、貸出利率を見ただけでもわかるだろう。新銀行東京は10〜15%という利息制限法の上限で貸している。言い換えれば、消費者金融並みの利率で貸し出しているのである。

しかし、そんな金利で事業資金を借りて、一般的な中小企業の事業がまわるはずがない。これは、金融の専門家でなくても、一般常識として当然のことだろう。

身の回りにある中小企業を思い浮かべてほしい。そば屋、パン屋、自動車整備工場といった事業所が、15%の金利を払えるはずがないことくらい、冷静に考えたら誰だってわかる。

現に、新銀行東京の貸出先のうち、2345件もが経営破綻しているという。経営破綻した理由は、けっして融資の量が足りなかったからではない。金利10〜15%で資金を借りようとしている企業というのは、経営が追い詰められて、にっちもさっちもいかなくなったところがほとんどなのである。

まともな事業計画を立てて事業をする余裕もなく、ただ目先の運転資金が足りないから、藁をもつかむ思いで金を借りたのだろう。

もちろん、新銀行東京の経営がずさんだったことは否定できない。しかし、公的機関だったことによる経営の不効率がその要因だったのでは、けっしてないとわたしは考えている。ミドルリスク・ミドルリターンというビジネスモデル自体に問題があったのだ。

じつは、ミドルリスク・ミドルリターンを言い出した張本人の一人が、小泉内閣のもとで金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム(竹中チーム)のメンバーを務めた木村剛氏であった。

彼は、銀行の貸し渋りが諸悪の根源であるとして、まさに新銀行東京と同じビジネスモデルのもと、純粋に民間資本によって日本振興銀行を立ち上げた。

では、その銀行は今どうなっているのか。この銀行は民間であるがゆえに、公的機関による経営の不効率というものとは縁がない。にもかかわらず、今期の中間決算は5億円の赤字であり、これまで何度も赤字を出し続けてきた。

民間企業で、しかも金融のプロ中のプロである木村氏がかかわってさえ、うまくまわらないのである。ミドルリスク・ミドルリターンというビジネスモデル自体が、そもそも空想の産物だったという立派な証拠である。


残された道は「安楽死」か「普通の銀行への転換」の二つ

日本の銀行による不動産担保融資に対して、批判する人は多い。しかし、考えてみれば、これは世界最強のビジネスモデルでもある。

というのも、銀行業というのは預金を預金者から預かり、元本保証で返さなくてはならない商売だからである。そうした事業をしている限り、資金運用において高いリスクをとってはならない。リスクが悪いほうにでたら、元本保証で預金を返せないからだ。

そもそも、リスクの高い、いわばイチかバチかの資金というのは、銀行のような間接金融が担うべきものではなく、株式や債券の取引のような直接金融が担うべきものである。

銀行の預金者にしても、そんなイチかバチかの勝負は期待していないだろう。そこをはき違えて、まったくパイのないところに、まるでユートピアがあると信じ込んで突っ込んでいったのは、石原都知事の責任でもあるし、メディアの責任でもあるとわたしは思う。

なにしろ、当時のメディアは、ミドルリスク・ミドルリターンをとる新銀行東京の登場に拍手喝采し、あたかも中小企業の救世主のように賛美していたのである。それが、ここに来て、手のひらを返すように、東京都や石原知事を袋叩きにしているのはいかがなものか。メディアも同罪なのであり、まったく反省がないとしかいいようがない。

さて、今回追加出資する400億円であるが、これは現に新銀行東京に資金を借りている企業がある以上、やむを得ない措置なのかもしれない。確かに、いきなり新銀行東京を潰してしまうと、借り手は闇金に走るしかなく、バタバタと倒産が続出することが予想される。

ただ、追加出資を機に審査システムを改善するくらいで、新銀行東京が復活するかといえば、それは絶望的である。繰り返すが、ミドルリスク・ミドルリターンというマーケットがほとんど存在しないのだから、どうしようもない。

残された道は二つである。一つは、新銀行東京を安楽死させる方法。もう一つは、一般の銀行に衣替えさせる方法である。現に、貸出先の比重は中小企業から大企業に移りつつあるので、それをさらに推し進めていくわけである。つまり、優良な企業に低利で貸し出す、ローリスク・ローリターンに方針転換するのだ。

逆に言えば、「新銀行東京は、けっして中小企業の味方ではありません。今後は金をかせぐための普通の銀行に変えていきます」と宣言をしない限り、400億円はまた無駄になるだろう。

400億円という金は、国のレベルで見ればたいしたことはないかもしれないが、当初の1000億円と合わせると1400億円に達する。これは、1280万人の東京都民1人あたり、1万円以上の税金を使った計算になる。

それがいいことに使われるならまだしも、いったいどこに消えてしまったのか。おそらく、破綻した2345社のなかには、借りる前から自分でもダメだと思っていた人も多かっただろう。そうした「目先の金」に貴重な税金がつぎ込まれてしまったのである。

400億円の追加出資はどうやら決まりのようだが、野党のみならず与党も、10〜15%で貸し出してきた意味を厳しく問いただすべきだろう。そんな利率で一般の中小企業が金をまわすことなど不可能であることくらい、都議会議員ならわかっていると思うのだが。



経済アナリスト 森永 卓郎

  1. 2008/03/31(月) 22:33:46|
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