【すごいぞ日本】 F1支えるホイール 北陸・富山空港のロビーにはホタルイカの沖漬けや白エビなど富山の名産品とともに、自動車レースの最高峰、フォーミュラワン(F1)のホイール(車輪)が飾られている。民間調査機関「イニシアチブ・スポーツ・フィーチャーズ」が発表した2007年度テレビ最高視聴率によると、米プロフットボール、NFLの王座決定戦、スーパーボウルを抑え、瞬間視聴率で世界一に輝いたのは「F1ブラジルGP最終戦」だった。その世界スポーツの王、F1が、なんで富山なのか。
「あまりご存じないのかもしれませんが、これが町工場の技術力なんです」
ワシマイヤー社の谷川章副社長が説明する。富山県高岡市郊外にある従業員250人余りの小さな企業。もとは繊維機械用のビーム(糸巻き機)を製造していた。だが、国内繊維産業の衰退の中で1980年代には転身を迫られ、ビーム製造で培った鍛造技術の応用分野を探した。
「車の大事な足回りが鋳物だったとは意外でした。鋳造と鍛造の違いは、簡単に言えば、鍋や釜と日本刀や航空機の車輪を支える脚の差です」
自動車の車輪は金属を圧縮して作る。鋳物は1平方センチに500グラムの圧力しかかけないので、無数の空気孔ができてもろい。鍛造は4トン以上を加圧する。その分、強度が均一化され、見た目は同じでも信頼性、安全性には格段の差がある。
自動車の車輪が鋳物で作られていることを知って、同社経営陣は「そんなもろいもので」と驚き、同時に大きなビジネスチャンスをつかむ思いだった。
問題はビームの何倍もの圧力が必要な車輪用の鍛造技術をどうするか。「北陸の貧乏会社なので最初から大きなプレス機があったわけじゃない」と谷川副社長はいう。秘密兵器はセクション鍛造だった。
同社創業者の小野光太郎会長が若いころ電車でハイヒールの女性に足を踏まれた。「痛い!」と思ったとたんにひらめいた。つま先で踏まれても痛くないのに、かかとで踏まれるとどうして痛いのか。それをヒントにして、狭い1点に集中し何度も圧力をかけるのがセクション鍛造法だ。その技術にさらに改良と工夫を重ね、現在は機械にかける「密閉型鍛造方案」が同社の技術を支えている。
「他社のは圧縮時にどうしても金属がこぼれ出る。ウチは完全に密閉でき、圧縮にムラがないので密度も均一性も違います」
技術で産業構造の変化を乗り切ったワシマイヤー社は92年からフェラーリ、94年からベネトンなどF1の強豪チームにホイールを供給するようになり、一気に有名になった。ベネトンなどは逆に、ワシマイヤー社のホイールを使ったから強豪の仲間入りを果たしたと言われたほどだ。
F1では以来、昨年までの14年間で9度の優勝。今年もフェラーリ、トヨタ、ホンダなど5チームに供給している。
ワシマイヤー社の車輪はなぜ強いのか。さらに秘密をさぐっていこう。
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強さの秘密は密閉力 F1の車輪は2つの相反する課題のせめぎ合いである。強度と重量。サーキットの疾走速度は時速300キロを超える。もろければ、その高速に耐えられない。だが、強度を重視して足元が重くなれば、超高速そのものが実現できない。
レーシングカーの車輪製造で世界の先端を行く富山県高岡市のワシマイヤー社は、高度の鍛造技術で、より強く、より軽くの奇跡に挑み続けてきた。不可能を可能にしたのは、前回も書いた「密閉力」だろう。
その密閉力が、鉄よりもはるかに軽いアルミニウムで1ピースプレス加工を実現させた。ボルトで組み合わせることなく、独特のメッシュ状のデザインを1枚の円盤状に鍛造していく方法である。強度に問題があるアルミニウムも密閉され、高い密度を保つことで強さを身につける。
ワシマイヤー社はさらにマグネシウム鍛造にも挑戦した。あのモロモロと崩れそうなマグネシウムで車輪を作る。
ワシマイヤー社が開発するまで、「まさか、そんな」と業界では相手にされなかったマグネシウム車輪はいまや、F1だけでなくインディ、ルマンなど世界の主要レースの栄冠を独占する勢いだ。
高岡市の工場には金型が積んであった。この金型で素材を挟み高性能プレス機にかけ圧縮する。写真を撮ろうとすると、谷川章副社長が「これだけはダメです」とあわてて飛んできた。金型の構造こそが密閉力を生み出す秘中の秘なのだ。
同社の製品はドイツの大手車輪メーカー、BBS社を通じ、世界に供給されている。レース用だけではない。ベントレー、アストンマーチン(英国)、ポルシェ(独)、レクサス、クラウン(トヨタ)などの名だたる高級車もワシマイヤー社の車輪を使っている。
日本BBS社の広報企画担当、山口弘美さんによると、F1で使われている車輪はワシマイヤー社製だけではない。だが、「スポンサー参画のかたちで無償納入するところが多いのですが、ウチはフェラーリでもどこでも、すべてお金を頂いています」という。
ただで使えるというオファーがあっても、強豪チームはあえて高額の車輪を選ぶ。その事実こそが北陸の町工場の技術陣を支える最も大きな勲章なのだ。
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車輪という円の機能を追求する技術。この分野は自転車競技でも日本が際立っている。
「急いでホイール(車輪)セット30本を出荷してほしい」
堺市の自転車部品メーカー「シマノ」に緊急の国際電話がかかってきたのは3月上旬のことだ。フランスのロードレースチームからの発注だった。
ロードレースのプロチームは欧州を中心に世界で21チーム。うち7チームがシマノのホイールを採用している。
北京五輪でも多数の選手が新開発の同社ホイールを使い、いずれはその車輪が世界標準になる。電話を受けたアクションスポーツ事業部の倉本圭介係長(42)は、一段とそうした確信を強めた。
- 2008/04/07(月) 06:00:11|
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