「社長と飲み歩く会」に隠された深慮遠謀
株式会社武蔵野 社長 小山 昇氏わたしは年に4回、「社長と飲み歩く会」と称して一般社員と酒席を持ちます。これは文字通り、新宿の飲み屋をハシゴして飲み歩くもの。17時30分開始で、お開きになるのは日付も変わる6時間半後。なかなかヘビーな飲み会ですので、翌日が日曜日です。
「社長と飲み歩く会」の目的は、わたしと一般社員とでコミュニケーションを取ることです。現在では従業員数650人で、正社員130人いると、さすがに日常業務のなかで一般社員とコミュニケーションを取ることは難しい。だからといってコミュニケーションを放棄すれば、一般社員はばらばらな価値観で仕事をする事になり、組織としての一体感を維持できなくなる。
会社の経営が思わしくなくなると、すぐに景気や消費動向の変化に理由を求める社長がいます。わたしとて、それらは無関係だとまでは言わない。しかし本当は、社内のコミュニケーション不全による売上減、利益減のほうがはるかに大きい。会社の業績は、コミュニケーションの量と質に正しく比例する。だからこの会を大切なものと位置づけ、当日はひたすらホスト役に徹しています。
さて、これは初めて明らかにすることですが、実は「社長と飲み歩く会」にはコミュニケーション以外にも二つの目的がある。一つは人材発掘。そしてもう一つは守秘義務の訓練です。どういうことかページを改めて解説しましょう。
下戸なのに1合8000円の高級凍結酒を飲み干す社員まずは「人材発掘」について。
わたしは飲み歩き会の最中、始終社員を観察し勉強しています。店の中での立ち居振る舞いを見て、社員の性格や人となりを判断する。そのために、一般社員ではまず入れないような高級店に連れて行く。ふかふかのソファや豪華な調度品、洗練された店の接客にも臆することがなければ、「ああ、Aくんは積極的だ」と分かる。それは、将来の人事異動の際にも大いに参考になります。
かつてこんなことがありました。課長の上野朝之が一般社員だったころ、飲み歩き会に参加したときの話です。上野はもともと下戸で、一次会では乾杯時のビールにちょっと口をつけただけで終わりました。わたし自身、飲めない社員に酒を強要することはありません。お酒が可哀想ですし、お酒をつくっている人にも失礼ですから。
ところが二次会で1合8000円という高級凍結酒を、上野は臆することなく飲み干し、「お代わり」と言いました。そればかりか彼は、次の店でヘネシーをお代わりして飲んでいました。
わたしは呆れつつも感心しました。上野にとっては、自分が酒に弱いという心配よりも、「1合8000円の凍結酒ってどんな味だろう」「高級酒で知られるヘネシーってどうだろう」という好奇心が勝った。
上野にとっては「不順な動機」だけなのかもしれません。いや、多分そうでしょう。しかし見方を変えれば「チャレンジ精神旺盛」と解釈できる。その後、大きな人事異動をしたために店長のポストが一つ空きました。わたしは躊躇することなく上野を抜擢した。すると彼は見事にわたしの期待に応えました。持ち前のチャレンジ精神で、大きな成果を出した。
「ホステスに連絡先をわたすな」と言われたら続いて「守秘義務の訓練」について。
飲み歩き会では、ホステスさんのいるクラブに行くこともあります。わたしはそこで「女の子に名刺を渡してはいけない」「eメールアドレスの交換をしてはいけない」と指示します。ところが、これがなかなかできないものなのです。ホステスさんは連絡先を聞きたがるし、社員は社員で酒も入って気が緩んでいる。
ホステスさんに連絡先を教えたところで懇ろになれるはずはなく、せいぜい営業電話・メールが来るだけです。キャバクラのホステスさんは、田舎の中小企業の社員なんぞ本気で相手にはしませんから。けれども社員にしてみれば「もしかして‥‥」と下心も働くのでしょう。参加メンバーの多くはわたしの目を盗んでこっそりメモや名刺を渡します。
わたしの目をごまかせると思っているのが社員の浅はかさです。わたしはフロアでジルバを踊りながら、しっかり彼らの動向をチェックしている。そしてわたしの指示を破って名刺を渡している社員を見つけたら、「あ、Bくんは誘惑に弱いな」と勉強できる。
念のため申しますと、わたしは禁を破った社員を責めることはしません。人間は弱い動物です。酒色の誘惑には負ける社員が普通です。しかしこういう社員には、お客様の個人情報を預かる部門や、我が社の経理を司る部門など、高い守秘義務が課せられる仕事を任せることもできないのも確かです。
ではどうするかというと、守秘義務が重視されない仕事で成果を出させる。人にはそれぞれ適性や性格がある。それをまるで無視しては、本人にとっても会社にとっても不幸です。
評価する物差しは同じにする反論はあるでしょう。「そんなことで評価されてはたまったものじゃない」「日常業務の中でも判断はできるはずだ」と。
しかし、飲み歩き会に参加する一般社員は、部門横断的に集まったメンバーです。当然、担当している仕事も違えば、スキル、キャリアも各人各様です。つまり日常の仕事ぶりを物差しにすると、さまざまなバイアスがかかり、正確な判断ができなくなってしまう。
正しく判断したいのならば、条件を揃えておかなくてはならないのは自明の理です。だからこそ飲み歩き会で時間と場所を共有し、同じ物差しで社員を評価する。これもまた我が社ならではの平等主義の表れです。
- 2008/04/10(木) 06:00:55|
- 会社、仕事
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