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たばこ代1000円の衝撃

たばこ増税か消費税か
政治アナリスト 花岡 信昭氏




福田首相が主要国の通信社代表との記者会見で、消費税の税率アップは不可避という判断を表明した。慎重居士の福田首相としては踏み込んだ発言だが、一方で「たばこ1000円」が現実味を帯び始めてもいる。政治攻防の中で「たばこ増税 vs.消費税」の構図が浮き彫りになってきた。

福田首相の発言が飛び出したのは17日。会見の途中で、唐突に「消費税がいま5%なんです。ヨーロッパの国と比べると非常に低い」と発言した。これについて福田首相は記者団に「20%ぐらいのところが多い国のメディアが大勢いたから、日本は5%でも国民皆保険を達成しているということを強調したかった」などと釈明している。

消費税論議が来年度税制改正の最大の柱であることは言うまでもない。基礎年金の国庫負担分を3分の1から2分の1に引き上げるための財源確保には少なくも1%(2.5兆円)の引き上げが必要だ。

自民党内には、通常は年末に行う党税制調査会の論議を通常国会閉幕後、ただちに始めるべきだという声も強い。





福田政権に消費税に取り組む政治的パワーはない

大平政権の大型間接税構想以来、竹下政権で消費税導入に至るまで10年かかった。当時は3%。これを橋本政権下で5%に引き上げた。自民党にとって、消費税は難物中の難物だ。

あの当時、「税調の神様」とまでいわれた山中貞則氏(党税調会長)は、「きょうから消費税の論議を開始する。みんな、次の選挙は落選覚悟でこの問題に取り組んでほしい」と檄を飛ばしたものだ。悲壮の決意が求められるテーマなのである。

山中氏は税制論議が始まると、陳情のたぐいをいっさい受け付けなかった。「白刃を抜き身でぶら下げている政治家」などともいわれたほどで、取材に当たっていた当方などは、その迫力の前に党本部の廊下で出会っても声をかけるのをためらったほど、ピリピリとした緊張感に圧倒された。もっとも素顔の山中氏は気さくな一面もあり、地元、鹿児島の繁華街・天文館でカラオケに興じたことをなつかしく思い出す。

なぜ山中氏のことに触れたかというと、消費税に取り組むには、ある種の「狂気」ともいっていいほどの政治的胆力がないと、とてもではないが無理であるということを強調したいためだ。中曽根康弘元首相が後継者選定に当たって、大方の予想(安倍晋太郎氏が最有力とされていた)を覆して竹下登氏を指名したのは、消費税導入をやるかと確約を求め、これに真正面から応じたのが竹下氏だけだったため、ともいわれる。

福田首相にそれだけの気概、政治決断があるかというと、これはなんとも危うい。消費税の大幅引き上げ断行は、政権崩壊を覚悟して初めて可能になる。もっとも、消費税と退陣をバーターにすることができれば、歴史に残る宰相ということにはなる。

民主党はもともと消費税引き上げには賛成の立場だが、国民の信頼を欠いた福田政権にはその資格はないとして、例によっての政略優先で、引き上げ反対を貫く構えだ。支持率低迷にあえぐ福田政権には消費税に真っ向から取り組むだけの政治的パワーはないというのが大方の見方であろう。






財源確保策として浮上した「たばこ1000円」構想

経済財政諮問会議の「骨太の方針2008」素案では社会保障の安定財源確保に言及した部分で「あらゆる世代で広く負担を分かち合う」といった表現をしている。消費税を年頭に置いたものであるのは言うまでもない。

いずれ10%、20%という時代が来るのは不可避と見られているのだが、問題は、来年度税制改正でそのスタートを切ることができるかどうかだ。来年度に限っていえば、基礎年金国庫負担分に相当する1%分が生み出せれば、それでいいことになる。それでは、消費税以外の財源確保策はないのか。そういう流れの中で浮上したのが「たばこ1000円」構想だ。

1000円にすれば、たとえ喫煙人口が3分の1に減っても3兆円は見込める。これを実現できれば、福田政権は消費税に触らずに済む。来年9月の衆院任期満了までには解散、総選挙をやらなくてはならないのだが、できる限り、消費税とは切り離した時期にしたいという思惑が自民党側にあるのも当然だ。消費税論議をいったん封印し、総選挙を先行させて、選挙後に本格論議を再スタートさせるという「うまい手」が通用するのかどうか。

自民党内には、成長路線を重視する「上げ潮派」と消費税引き上げを軸とすべきだという「財政再建派」の対立構図が鮮明になりつつある。「上げ潮派」の代表格である中川秀直元幹事長が「たばこ1000円」派の先頭に立っているのはよく分かる。たばこ増税によって当面の消費税引き上げを回避し、福田政権を守るというスタンスだ。

基礎年金を全額税負担とした場合、最大で消費税18%となるという試算も公表された。だが、これは年金だけの話である。医療や介護なども含めて、社会福祉施策全体でどれだけの財源が必要なのか、消費税をどう位置づければいいのか、総合的かつ壮大なシナリオを描くのが政治の責務である。





「たばこ600円」で消費税回避か

「たばこ1000円」の落としどころは、現行の2倍、600円程度に想定されているという見方もある。その場合、喫煙人口の減少幅は1000円とするよりも小さいと見られるから、財源確保の計算が成り立つのかもしれない。

中川氏や民主党の前原誠司氏らが参加する「たばこと健康を考える議員連盟」は、その名の通り、たばこによる健康被害の側面からも価格アップで喫煙人口を減らすということに力点を置くらしい。だが、真の狙いは消費税回避にあると見ていい。

たばこ増税か消費税アップか、という構図は、どう見ても「大きな政治」とはいえない。そうした意味で、急浮上したたばこ増税論は、矮小化された政治の象徴的事象といえるのかもしれない。

  1. 2008/06/21(土) 21:17:56|
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